建築設計は、建築家の東利恵氏が手がけました。東氏が着目したのは、軽井沢に暮らす人びとは、庭に向かうテラスや縁側を通して、自然と触れ合いながら生活をしてきたということです。 星のや軽井沢でも、お客様に別荘のように過ごしていただきたいという想いから、分棟型の建物を点在させて、大きな開口を景色に向かってとることで開放感のある設計を考えました。
そして、日本人が昔から内部と外部の空間をつなげようと考えてきたことも重要な要素でした。 日本家屋の伝統手法を見習い、屋外と室内をつなぐ広いテラスや広縁を設けました。四季折々の豊かな自然と、そこに設計された建物と池を中心とする魅力的な風景。この風景を「いつまでも眺めていたくなる場所」として提供することは、客室を設計する上でもっとも重要な課題のひとつでした。
さらに東氏が考えたのは、日本人にとっての「くつろぎ」とは何か、ということ。もっとも居心地がよく、やすらぐことのできる空間づくりのため、ソファの座り心地や目線の位置など、 何度も検討と検証を重ねました。その結果、客室は、単なる「眠る部屋」という一般的な宿泊施設とは違った、「滞在する空間」へと生まれかわりました。この「滞在する空間」への転換は、星のや軽井沢にとっても重要な挑戦でした。
水波、山路地、庭路地のそれぞれの立地の魅力を引き出し、集落風景の変化を作りだそうとした結果、客室の設計バリエーションは22を数えるほどとなりました。そこから見える風景も考えると、同じ部屋は二つとありません。また点在する建物を路地が結び、集落の風景を形成しています。こうして星のや軽井沢という、他には無い集落的な空間が東氏によって実現されたのです。