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台中から一時間半ほど車を走らせると、谷あいの温泉郷・谷關(グーグァン)が現れる。
ダイナミックな景色は、長い時間をかけて自然が作り上げた芸術だ。
大きな川にかかる吊り橋の先には、黒い楼閣が浮かんでいる。
風と水と温泉が贅沢に流れ、最上の湯浴みとまどろみが設計された場所。
物語のように美しい時間が、そこにあった。
歴史ある街並みとモダンな建築が融合した台中は、若手クリエイターも集まる都市だ。グーグァンはその郊外にあり、標高3000m級の台湾中央山脈に囲まれ、春は桜が咲き、秋は木々が赤や黄色に染まる。大甲渓という河川が削り出した谷あいが、豊かな湧き水と湯量豊富な温泉、そして心地いい風を呼んでいる。そこには、亜熱帯の台北とはまた違う「もう一つの台湾」が息づいていた。
長い竹林のアプローチを抜けると、無機質な建物が顔を出す。大きなレセプションには自然を表現した絵画が飾られ、台湾らしい鮮やかな色使いに目を奪われる。ライブラリーの先には、ウォーターガーデンの美しい景色が広がっている。ここはまるで森の美術館だ。広大な敷地は、水音の聞こえない場所がない。水路でつながる庭。ガゼボの点在するプールサイド。滝の流れる露天風呂。夢中で歩いているうちに、もう、日常の疲れを忘れている。
散策の合間、大浴場の入口を見つけたら、気まぐれに入ることもできる。弱アルカリ性炭酸水素塩泉は「美肌の湯」と言われ、檜の内湯はしっとりと心地いい。露天風呂は小川のように奥行きがあり、この国の多種多様な植物が生い茂り、季節に応じて色を変えていく。屋外にいながらプライベート感があるのは、そのジグザグした形状のおかげだろう。滝の流れる音を聞きながら、天女が湯浴みをするとしたら、きっとこんなところだろうと思った。
ウォーターガーデンは曲がりくねった道でできている。本来ここにある植物を壊さないように。いろんな角度で景色を楽しめるように。水路にはアメンボが這い、睡蓮が浮かび、空高く伸びる五葉松の上には、毎朝、ヤマムスメという青い鳥が訪れる。この国では珍しくないというその姿は、しかしさながら幸福の鳥のように、心を高揚させてくれる。ガゼボで読書をし、疲れたら昼寝をする。そんな時間を過ごすうちに、やがて自分も森の一部になっていく。
温泉の楽しみは、湯を浴びることだけではない。湯上り処でくつろいでいると、時折、かき氷や台湾茶がふるまわれる。湯上りにグーグァンの山々を見渡すなら、4階の「風の間」だ。無造作に置かれた椅子に座ると、心地いい風が通り抜ける。そのときそこは、どんなソファも勝てない特等席になる。
世界でいちばん贅沢な休息とは、どんなものだろう。その答えは、もしかしてこの部屋にあるかもしれない。ほとんどの客室がメゾネットなのは、半露天風呂専用のフロアを設けるためだ。両面に窓があり、開けば風の通り道ができる。風の量はルーバーで自由に調整すればいい。源泉かけ流しの湯に浸かりながら、朝は山を眺め、夜は星空を見上げる。湯上りは大きなソファでまどろみ、また気が向けば湯に浸かる。この時間が、無限に続けばいいと思う。