河口湖を見晴らす山の斜面で、
心赴くままに外遊びを満喫することができる。
グランピングという遊びは、
些細な自然の変化に気づかせてくれる。
火を囲み、森の気配を聞く。
体が少しずつ動物としての本能を目覚めさせていく。
まるで森に隠されたような敷地は、高低差が100mある山の中腹に位置している。その斜面を歩きながら、視線は足元を見つめる。そこには土があり、草が生え、樹木が伸びている。深く息を吐きながら、草木に視線を這わせて天を見上げる。葉の形状がそれぞれ違い、針広混交林であることに気づく。赤松の枝と紅葉の葉に遮られ、影が顔に落ちる。太陽光の角度を意識すると、1日の見え方が変わった。自然が魅せるあらゆる些細な瞬間に、目を見開いていく。
樹々の匂い、特に針葉樹の香りがこれほど爽やかだとは思わなかった。鼻に抜ける清々しさに誘われるように、ウッドデッキが雲のように重なり合ったクラウドテラスを登っていくと、強い薫香を感じる。朝から常に焚かれている火は、その匂いによって人々を呼び寄せる。火に誘われるのは、本能に訴えるためか。炎は一瞬も止まることがない。空から木の実のようなものが落ちてきて、コツンと音を立てて、デッキの上を転がっていった。嗅覚、視覚、聴覚の次は用意されたウイスキーで味覚を満たそうか。この森は、五感に響く要素に溢れている。
静かな森に佇み深呼吸するうちに、木立が茂る森に続く散策路へ歩を進めたくなった。足裏から伝わる繊細な感触。平坦ではないことが、楽しみとなる。落ち葉が積もった場所は、ふかふかとして、気持ちがいい。いずれ時が経てば土へと帰っていくのだろう。大地を踏みしめることが、快楽であることを知る。6haという広大な敷地を歩くうちに、都会の日常生活では使わない感覚が開かれていく。足の裏の感覚に集中している自分自身を、発見する。森の中では、新しい自分にさえ出会うことができる。
スコープのような形をしたシンプルな箱は、湖を向いて建てられている。部屋でありながら、敷地の3分の1はテラスリビングとして設定されている。つまりは、外と中という概念さえ曖昧な空間。雲の隙間から対岸の山の裾野が現れ、湖面は風でさざめいているのが見えた。夜には遠くに灯ったオレンジの街明かりが、隔絶感を演出する。最低限にして必要十分な部屋では、時間の流れ方が違う。深く自分の心に潜っているうちに、星がその位置を変えた。
一年中ジビエが食べられるエリアがあることを知らなかった。増えすぎた鹿やイノシシは、春夏秋冬、それぞれの森の恵みを身体に蓄えているため、季節によって味が違う。ジビエは、森を食べているに等しい。それは、自分が手を加えることによって完成する。グランピングマスターのアドバイスに従って自分で焼いた鹿肉の深いうまみ。グランピングとは、ワイルドライフの恵みを最高の形で享受すること。思わず、森に感謝する。
一度はやってみたいと思っていたアウトドアライフを、グランピングマスターの導きによって、次々と叶えることができる。燻製を作り、ダッチオーブンで料理をする。薪を割って、ピザを作る。すべてはお膳立てされているから、戸惑うこともない。だが、次の機会には、自分が苦労をして火を起こしてもいいかもしれない。そんな気持ちにさえさせてくれる。アウトドアの扉は開かれた。その愉しみは、今後の人生を変えてしまう可能性さえある。