食事

京料理というと、何か特別な素材を使った料理だと思われがちですが、その本質は「全部ある」ことにあります。都という土地柄、京都には全国のあらゆる食材が集まりました。料理人たちはそれらを使い、金満家たちに腕をふるいました。私も多様な食材を使いますが、取り寄せる際には、地場ならではの食べ方などの話を生産者に聞くようにしています。彼らは食材のプロですので、アイデアを豊富に持っているのです。
例えば、芋の滑らかな食感を利用して他の食材に見立てられないか？という話を聞いた時には、私は海老芋を使った和製フォアグラを作りました。完全に見た目がフォアグラなので、お客さまは驚かれます。ぱっと見は「洋」ですが、食べると「和」ですからね。料理人は、ひとりで考えていても限界がある。すると、そこに何かを足していってしまう。こうなるともう京料理ではないんですね。素材が消えてしまうので。だから、生産者に聞く。常に料理を進化させることができるのも、料理の主役は生産者だと考えているからです。彼らが作った素材の旨みを、盛り付けや味付けを駆使して引き出すのが料理人。今でも私は素材の勉強を欠かしません。

京料理を通して日本の四季を見つめる。

星のや京都は、四季の移ろいを肌で存分に感じられる場所です。ダイニングでは、お皿の上でも小さな四季の世界を体験してもらいたいと思っています。私は料理を構成する前、季節ごとの情景をイメージします。例えば梅雨なら、赤いランドセルを背負った女の子が、傘をさしながら紫陽花を見ている風景。そこにはカタツムリもいそうですから、水無月の献立には、エスカルゴを添えた前菜を一品、といった工夫をするのです。7月には祇園祭もあるので、ちまきを作るなど、歳時記にも合わせます。四季は海外にもありますが、料理の中で季節の情景を想起させられるのは日本だけではないでしょうか。コースでは、季節感を出しつつ、そこに「洋」のエッセンスも加えることで、日本の方には京料理の再発見を、海外の方には京料理との出会いを楽しんでいただきたいと考えています。